ミトコンドリアが老化を決めている

投稿者: | 2011年11月16日

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活性酸素が老化を進める張本人であることがわかってきました。老化の原因である活性酸素の90%はミトコンドリアで作られます。また、ミトコンドリアは生体で必要なエネルギーの源をつくっています。このエネルギー源は、体の中で毎日毎日壊されている部分の修復にもあてられます。私たちの日常生活で、修理するにはお金がかかるのと同じです。でも、活性酸素やエネルギーだけで老化を説明できるわけではありません。多くの原因がからみあって老化が進むのです。ところが、最近の研究、しかもここ2〜3年の研究によって、種々の原因はミトコンドリアに働きかけていることがわかってきたのです。しかも、下記に示す引用文献をみると分かるように、去年と今年発表された論文が多いのです。ミトコンドリアが老化を決めていると言える時代になりました。

テロメアとミトコンドリア
2009年には、老化の原因の解明に貢献があったとして、「テロメア」の研究にノーベル賞が与えられました。テロメアは、細胞が分裂するごとに短くなるのですが、完全になくなる前に老化が進むので、老化とテロメアの短縮の間には、未解明の謎があったのです。今年になって、すばらしい研究論文が発表されました。テロメアが短くなると、ミトコンドリアが減少し、活性酸素が増え、老化が進むことを解明した研究です。有名なNatureに論文が掲載され、そこでは、Ageing theories unified (老化説がひとつになった)と賞賛されています。

学術雑誌:Nature. 2011 Feb 17;470(7334):359-65.
論文名:Telomere dysfunction induces metabolic and mitochondrial compromise.
著者:Sahin E, Colla S, Liesa M, Moslehi J, Müller FL, Guo M, Cooper M, Kotton D, Fabian AJ, Walkey C, Maser RS, Tonon G, Foerster F, Xiong R, Wang YA, Shukla SA, Jaskelioff M, Martin ES, Heffernan TP, Protopopov A, Ivanova E, Mahoney JE, Kost-Alimova M, Perry SR, Bronson R, Liao R, Mulligan R, Shirihai OS, Chin L, DePinho RA.

炎症とミトコンドリア
私たちには自分自身を攻撃せずに、異物を攻撃して排除する機構があります。それが免疫です。ところが、私たちの体は長い間に少しずつ変化していきます。少しずつ変化していくと自分自身なのにその違いを外敵と勘違いして攻撃するようになります。これが、慢性的な炎症です。炎症が老化の本質だという意見があります。
最近になって、炎症にもミトコンドリアが重要な役割を果たしていることがわかってきました。これも今年になって明らかになったことです。

学術雑誌:Nature. 2011 Jan 13;469(7329):221-5.
論文名:A role for mitochondria in NLRP3 inflammasome activation.
著者:Zhou R, Yazdi AS, Menu P, Tschopp J.
所属:Department of Biochemistry, Center of Immunity and Infection, University of Lausanne, Chemin des Boveresses 155, CH-1066 Epalinges, Switzerland.

カロリー制限、長寿遺伝子とミトコンドリア
カロリー制限をすると長寿遺伝子のスイッチonされて、寿命が延びるという話を聞いたことのある人は多いでしょう。先日のNHKスペシャルの(6月12日放映)「あなたの寿命は延ばせる:発見!長寿遺伝子」では、カロリー制限によって長寿遺伝子が働き、長寿になれるという話がされました。人間には誰にでも長寿遺伝子が7つあります。その中の3つの長寿遺伝子によって作られる酵素はミトコンドリアの中で働いています。最近になって、長寿遺伝子によって作られるミトコンドリア酵素はエネルギーを有効に使うようにして長寿を達成できることが明らかになっています。さらに、活性酸素を消す役割も増強します。しかも、アミノ酸を有効に使ったり、アンモニアを排除するための大切な役割を果たしていることがわかりました。また、長寿遺伝子のなかでもっとも中心的な役割をはたしているSirT1はミトコンドリアを増やす働きがあり、たくさんある役割のなかでも最も受容な役割であることがわかりました。
カロリー制限と長寿遺伝子は、ミトコンドリアに働きかけていたのです。

学術雑誌:Aging (Albany NY). 2011 Jun;3(6):635-42.
論文名:SIRT1 and SIRT3 deacetylate homologous substrates: AceCS1,2 and HMGCS1,2.
著者:Hirschey MD, Shimazu T, Capra JA, Pollard KS, Verdin E.
所属:Gladstone Institute of Virology and Immunology, University of California, San Francisco, CA 94158, USA.

学術雑誌:Nature. 2010 Mar 4;464(7285):121-5.
論文名:SIRT3 regulates mitochondrial fatty-acid oxidation by reversible enzyme deacetylation.
著者:Hirschey MD, Shimazu T, Goetzman E, Jing E, Schwer B, Lombard DB, Grueter CA, Harris C, Biddinger S, Ilkayeva OR, Stevens RD, Li Y, Saha AK, Ruderman NB, Bain JR, Newgard CB, Farese RV Jr, Alt FW, Kahn CR, Verdin E.
所属:Gladstone Institute of Virology and Immunology, San Francisco, California 94158, USA.

学術雑誌:Cell. 2010 Nov 24;143(5):802-12.
論文名:Sirt3 mediates reduction of oxidative damage and prevention of age-related hearing loss under caloric restriction.
著者:Someya S, Yu W, Hallows WC, Xu J, Vann JM, Leeuwenburgh C, Tanokura M, Denu JM, Prolla TA.
所属:Departments of Genetics and Medical Genetics, University of Wisconsin, Madison, 53706, USA.

ミトコンドリアは老化を決める中心
アポトーシス、イースター島で発見された免疫抑制剤ラパマイシンとの関連も続々あきらかになっています。今まで、研究者の数だけ仮説があるとさえ言われてきた老化の原因です。でも、それらのほとんどが、ミトコンドリアを中心にして関与していることが解明されつつあるのです。ミトコンドリアを制する人は、老化を防げると言えるでしょう。