(topics59)ミトコンドリア病の治療薬世界にさきがけて、今年、認可申請へ第12回日本ミトコンドリア学会(筑波大学)
(topics55)ミトコンドリア遺伝子の交換後の受精
(topics52)クロレラを摂取するときに気をつけること
(topics51)ジクロロ酢酸とケトン食
(topics46)ミトコンドリア病の予防または治療薬の特許が成立しました
(topics29)ミトコンドリア医学に関する国際会議の開催が決定しました
(topics28)ミトコンドリア病患者は、ホントは10倍以上いる
(topics24)リスベラトロールは人間でも効果有り
(topics22)ミトコンドリア研究:文化功労者に(黒岩常祥東大名誉教授)
(topics19)クロレラは衰えた筋肉とミトコンドリアを回復させる
(topics17)ミトコンドリアを増やすのに必要なタウリンはスルメから(2011.09.13-TBS:教科書に載せたい出演より)
(topics16)宇宙の渚とミトコンドリアの渚
(topics13)女性ホルモンとミトコンドリア
(topics14)ミトコンドリアが老化を決めている
テロメアとミトコンドリア
炎症とミトコンドリア
カロリー制限、長寿遺伝子とミトコンドリア
ミトコンドリアは老化を決める中心
ミトコンドリア病の治療薬世界にさきがけて、今年、認可申請へ 第12回日本ミトコンドリア学会(筑 波大学)(2013.1.28)
ミトコンドリア病については残念ながら認可された薬がありません。日本だけでなく世界中で、ミトコンドリア病の薬として認可された薬はないので、担当医は苦労しながら手探りで自分の責任で治療にあたっている状況です。薬剤として認可されれば、担当の医師も安心して使う事ができるようになります。
第12回日本ミトコンドリア学会の年会は、筑波大学の大学会館で、2012年12月19〜21日開催されました。この学会で待ちに待った発表がありました。
久留米大学から「ミトコンドリア病の治験薬」についての発表があり、「効果あり」の判定がでたという発表がありました。今年にはいって、薬剤として認可申請をおこない、認可される運びです。
ミトコンドリア病のように患者さんが少ない病気は、製薬会社の利潤にはならないので、医師主導型の薬剤開発が行われています。別名「医師死亡型治験」といわれるくらい、大変な仕事です。最近は、厚生労働省も稀少疾患の対応にも力をいれるようになり、ミトコンドリア病に関しての認可薬への援助が2件行われています。あと3年後には、もうひとつ、予防薬として認可申請できるようにしたいと思います。
ミトコンドリア遺伝子の交換について、朝日新聞と日本経済新聞は、以下のような見出しで、25日に英国科学誌Natureに発表された論文を紹介した。
母2人の受精卵が成長 米チーム、遺伝病治療目指す(朝日新聞10月25日)
染色体「交換」で予防 遺伝性難病のミトコンドリア病(日本経済新聞 10月26日)
米オレゴン健康科学大の立花真仁研究員らが25日付英科学誌ネイチャー電子版に発表したものである。
米国内で21~32歳の健康な女性から同意を得て106個の卵子の提供を受け、うち64個に染色体を移し替える操作をし、受精させた。受精卵になった44個のうち19個が胚盤胞と呼ばれる段階まで成長した。胚盤胞は母体に戻せば赤ちゃんになりうる状態。
ただ移し替えをしたうち半数で、染色体の数が通常より多くなるなどの異常が起きた。
この技術が実現すれば、ミトコンドリア遺伝子に異常があり、生まれた子供がミトコンドリア病を発症しかねない母親からも、ミトコンドリア遺伝子に異常のない子供が生まれる。この研究結果では、染色体異常は認められたが、事前に異常な染色体を調べて除外することは可能であると思われる。
実は、ミトコンドリア病だけでなく、もっと多くの適用が可能だと思われる。卵子の老化がすすめば、受精しにくくなるが、これはミトコンドリアの老化が原因のひとつと考えられる。この技術は、卵子の老化による不妊症の治療に使われる可能性の方が大きいだろう。
この場合、父親の核遺伝子、母親の核遺伝子、若い別の女性のミトコンドリア遺伝子をもつ子供になる。
クロレラを摂取するときに気をつけること(2012.10.9)
先週末9月7日は、大阪でのミトコンドリア病患者家族の会で講演してきました。90分間のちょっと長い講演でしたが、皆さんたいへん熱心に聞いてくださいました。また、多くの方がこのブログを見ていてくださっている事がわかり驚きました。
クロレラ(クロレラ工業のクロレラがお勧め)を筋肉は細くなったマウスに与えると改善したので、健康食品として定着しているクロレラはミトコンドリア病の改善にも期待できるという話をしました。このことについて、クロレラの副作用はないのかとの質問がありました。クロレラには、ビタミンKが豊富に含まれていて、ワルファリンなど抗血液凝固薬の作用を低下させますので、抗血液凝固薬をつかっている場合は気をつけてください(たぶん、そのような例は少ないとおもいますが・・・)。
ジクロロ酢酸とケトン食(2012.10.9)
ミトコンドリア病では、ミトコンドリア機能が低下するので、かわりに解糖系でエネルギーを作ろうとします。その結果、乳酸がたくさん作られ、血液が酸性になってしまいます。その乳酸を減らすのが、ジクロロ酢酸です。
ジクロロ酢酸をミトコンドリア病の治療薬として開発しようと試みられましたが、末梢神経障害という副作用があることが欧米で報告され、薬としての開発は断念されました。しかし、日本では、このような大きな副作用の報告は、あまりありませんので、人種による差もあるのでしょう。たいへん残念です。
ミトコンドリア病の治療にジクロロ酢酸をどのように使っていくかについてはミトコンドリア病を診ている医師の間でもいろいろな意見がありまだ一定の見解がないのが現状です。ミトコンドリア学会のドクター相談室には専門医の意見がのせてあります。
効果があっても副作用の危険性と天秤にかけながら治療に使うことは難しいことで、主治医の先生が使いにくいと思うのも理解できます。
ここでは、乳酸の害を少なくするための食事法を紹介します。ケトン食という方法で、でんぷん類を少なくする方法です。ケトン食は、小児てんかんの予防食として開発されました。
ケトン食の本:奇跡の食事療法 [単行本] 丸山 博 (著) 出版社: 第一出版 (2010/1/15)
この本は、小児てんかんの治療に有効な「ケトン食療法(高脂肪・低糖質食)」について、わかりやすく解説した書です。グルコースが乏しくなると、脳は脂肪の最終分解物であるケトン体を使って活動します。この代謝経路の変更が神経細胞の働きに影響し、種々の病気によい影響を与えることがわかっています。ケトン食の解説、実践、献立、Q&Aから成り、献立はカラー写真つきで、具体的にわかりやすく解説してあります。
ミトコンドリア病の患者さんへの効果は、論文としては報告されていませんが、マウスへの効果は立派な論文が多数でています。
Lethal mitochondrial cardiomyopathy in a hypomorphic Med30 mouse mutant is ameliorated by ketogenic diet
Krebs P, Fan W, Chen YH, Tobita K, Downes MR, Wood MR, Sun L, Li X, Xia Y, Ding N, Spaeth JM, Moresco EM, Boyer TG, Lo CW, Yen J, Evans RM, Beutler B.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Dec 6;108(49):19678-82. Epub 2011 Nov 21.
Ketogenic diet slows down mitochondrial myopathy progression in mice.
Ahola-Erkkilä S, Carroll CJ, Peltola-Mjösund K, Tulkki V, Mattila I, Seppänen-Laakso T, Oresic M, Tyynismaa H, Suomalainen A.
Hum Mol Genet. 2010 May 15;19(10):1974-84. Epub 2010 Feb 17.
また、最近では若返り食としても紹介されています。
2週間で効果がでる! <白澤式>ケトン食事法 (かんき出版) (2012/10/3)、 白澤卓二
是非、主治医の先生と相談の上、検討してみてください。
ミトコンドリア病の予防または治療薬の特許が成立しました(2012.5.15)
本日、特許庁からうれしい連絡がありました。2001年の特許申請した特許が認められたというものです。早期審査を依頼せず、催促もしなかったのですが、11年もかかるとは、いくらなんでも審査に時間がかかりすぎですね。
ミトコンドリア病の予防、治療にタウリンの大量投与が効果的という特許です。ただし、特許で認められたからと言って、効果を保証するものではありません。興味のある方は、特願2001−234900を参照してください。
ミトコンドリア医学に関する国際会議の開催が決定しました(2011.12.5)
世界中でミトコンドリア研究が活発になっています。アジアでも中国、韓国、台湾でミトコンドリア学会が発足しました。今年は、スペインのサラゴサで、500人以上のミトコンドリア研究者が集まり、活発な議論を展開しました。この会議は、ヨーロッパと北米が中心だったので、さらに世界中のミトコンドリア研究者が集まって研究交流をする機会を設けることを待望する潮流が大きくなってきました。
東京で2013年11月6-8日に開催されます。主催は、順天堂大学教授。
なお、その前の週の3日と4日は、韓国でアジアミトコンドリア学会が開催されます。こういうのをうれしい悲鳴というのでしょうか。
ミトコンドリア病患者は、ホントは10倍以上いる(2011.12.5)
ミトコンドリア病はミトコンドリアの異常によって生じます。そのため、身体のいろいろな場所に症状がでてきます。また、ひとりひとり症状や身体の悪くなりやすさの進行度も違います。そのため、身体の不調を訴えたときに、主治医が「ミトコンドリアの異常ではないかな?」と疑ってくれないと、原因不明で終わってしまうことになります。ミトコンドリア病は、1985年くらいに見つかった病気ですが、一昨年にやっと特定疾患(難病)に指定された病気です。
ところで、ミトコンドリア病の患者数ですが、日本では、欧米諸国に比べて、とても少ないのです。難病情報センターでは、「日本では全国レベルの調査はまだ行われていませんが、小児科・神経内科・循環器内科などにかかっている患者さんが、合わせて数百 人いると推定されています。」と記載されています。
11月28日にオーストラリアのDavid Thorburn先生のミトコンドリア病に関する講演を聴く機会がありました。その講演では、欧米では、10万人あたり15.4人の発症という報告がされました。大人になって発症する人は、10万人あたり9.2人だそうです。日本では、全部で患者の数がせいぜい1000人という推定ですし、大人になって発症している人は非常に少ないので、日本人はミトコンドリア病になりにくいのか?という疑問を出しました。すると、埼玉医大の大竹教授からは、「実は丁寧に患者さんをみて診断すると、ちょうど海外と同じくらいの患者さんがいる」という意見をきくことができました。まだ、その結果は論文にしていないので私も初めて聞く話だったのですが、日本では1割しか、診断がついておらず、その他は原因不明としてしまっているようです。
是非、ミトコンドリア病という病気があることを医学会や社会で共通認識にしていただきたいと思います。そうすれば、原因不明の患者さんの病名がわかり、わずかでも対処ができるようになるようになると思います。何事も、病気を社会が理解するということがなければ進歩がありません。
米国の科学誌Cell Metabolismにリスベラトロールの効果についての研究結果が報告されました。Cell Metabolismは、たいへん権威のある学術誌です。
Calorie Restriction-like Effects of 30 Days of Resveratrol Supplementation on Energy Metabolism and Metabolic Profile in Obese Humans.
Timmers S, Konings E, Bilet L, Houtkooper RH, van de Weijer T, Goossens GH, Hoeks J, van der Krieken S, Ryu D, Kersten S, Moonen-Kornips E, Hesselink MK, Kunz I, Schrauwen-Hinderling VB, Blaak EE, Auwerx J, Schrauwen P.
Cell Metab. 2011 Nov 2;14(5):612-22.
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要約はhttp://d.hatena.ne.jp/appleflower/20111105から拝借しました。
研究者らは11人の肥満の、それ以外は健康な男性に、レスベラトロール150mg/日またはプラセボ(偽薬)を、無作為化二重盲検クロスオーバーという試験デザインで30日間投与しました。 するとレスベラトロール投与時には、睡眠時代謝率と安静時代謝率が有意に低下しました(カロリー制限時と同様の反応です)。 筋肉では、レスベラトロールはAMPKを活性化し、SIRT1(サーチュイン長寿遺伝子)とPGC-1αタンパクレベルを高め、ミトコンドリア量を変えることなくクエン酸合成酵素活性を高め、脂肪酸由来の基質での筋肉ミトコンドリアの呼吸を改善しました(すべてミトコンドリアの機能が高まっていることを示します)。 さらにレスベラトロールは筋肉細胞内の脂質レベルを高め、肝臓の脂質含量、血中の糖、トリグリセリド、ALT(GPT)、炎症マーカーを低下させました(燃えやすい筋肉の脂肪が増え、肥満者の肝臓の脂肪が減るのは良いことです。また血中の糖や肝機能マーカー、炎症マーカーも良くなっています)。 またレスベラトロール投与で収縮期血圧は低下し、HOMA指数は改善しました(HOMAは糖尿病で高くなります)。 食後の脂肪細胞の脂肪分解、血中の脂肪酸、グリセリンは低下しました(脂肪の分解が進んでいることを示します)。
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リスベラトロールはワインに含まれる赤い色素で、長寿遺伝子を活性化することで有名で、ミトコンドリアを活性化することがわかっていました。フランス人は、あんなに大食いなのに動脈硬化が少ないのは何故?という疑問から、フランス人はワインを飲むからだ。リスベラトロールがワインに含まれているからだということで、注目された経緯があります。ところが、人間に対しての効果を調べた研究報告は不思議なことになかったのです。この9月に行われた国際学会でも、リスベラトロールに関する研究報告があったので、私は「どうも人間への効果を示した論文が見つからないのだが・・・」と質問すると、「ない」と返事が返ってきたので、他のかたからも非難ごうごうでした。今回の論文で、リスベラトロールは人間にも効果があることがわかり、一安心。ただし、150mgも摂らなくてはいけないとなると、ワインでは無理。サプリに頼らざるをえません。ミトコンドリアを活性化する素材がまたひとつ明らかになりました。
ミトコンドリア研究:文化功労者に(黒岩常祥東大名誉教授)(2011.10.25)
今年の文化功労者に黒岩常祥東大名誉教授(70歳:立教大学特任教授)が選ばれました。おめでとうございます。黒岩東大名誉教授は、分裂・増殖の基本機構の解明など、ミトコンドリアに関して多くの研究業績を挙げてこられました。単細胞の酵母(パン酵母やビール酵母)のミトコンドリアが全部つながってしまうこと、その中の遺伝子もつながってしまうことを示し、世界を驚かせました。現在は、このHPの動画でも見られるように、人のミトコンドリアはつながったり、はなれたりすることが見えますが、当時は想像さえしなかったことでした。
ただ、黒岩名誉教授は、頻繁に「ミトコンドリアは奴隷のような状態にされている」と比喩をしましたが、あまり正しい表現ではありません。ミトコンドリアはエネルギー代謝だけをおこなって、そのエネルギーもすべてミトコンドリア以外で使われてしまうため、「奴隷状態」と比喩したのでしょう。しかし、ミトコンドリアはエネルギー代謝以外にも多くの役割が有り、細胞内で重要な役割を果たしていることが現在わかっています。当時は、ミトコンドリアがこんなに私たちの健康や老化と結びついていることは、想像さえしなかったことです。
クロレラは衰えた筋肉とミトコンドリアを回復させる (2011.09.28)
老化にしたがって、どうしても筋肉が衰えて活発に動き回ることが少なくなってしまいます。老後の生活には、筋肉の衰えを予防することが大切です。実は老化とともに筋肉の中のミトコンドリアがへって、筋肉繊維の数が少なくなって衰えてしまうのです。瞬発力のための筋肉にはミトコンドリアが少ないので、どうしても瞬発力に必要な筋肉が減りやすいのです。瞬発力が衰えると、ちょっとしたことで転びやすくなってしまいます。転んで骨折して寝たきりになってしまうことも少なくありません。では、どのような食事をすれば、老化による筋肉の衰えを防ぐことができるのでしょう。この課題の解決には、クロレラ工業株式会社との共同研究で挑みました。
私たちの研究室ではミトコンドリアの酸化ストレスの影響で筋肉が細くなってしまうマウスを遺伝子組み換えで作製しました。もし、そのマウスに何かを食べさせて、その筋肉が少しでも太くなってくれれば、老化や酸化ストレスによる筋肉の衰えを予防してくれることになります。
酸化ストレスによって筋肉が衰えるマウスに6ヶ月間クロレラを食べさせ、様々な面から検討を加えました。すると、明らかにクロレラを食べていた遺伝子組み換えマウスの筋肉は細くならなかったのです。また、同時にミトコンドリアを増やすこともわかりました。クロレラはミトコンドリアを増やす食べ物だったのです。クロレラは藻の一種で多くの成分がありますので、どの成分がミトコンドリアを増やし筋肉の衰えを予防してくれるかはまだわかりません。さらに研究をすすめることによって、クロレラのどの成分が必要なのかを明らかにしたいと思います。
この研究成果は、9月24日に京都で開催された日本生化学学会大会で発表し、たいへん好評でした。
このマウスに関する論文は、以下のとおりです。
Endo J, Sano M, Katayama T, Hishiki T, Shinmura K, Morizane S, Matsuhashi T, Katsumata Y, Zhang Y, Ito H, Nagahata Y, Marchitti S, Nishimaki K, Wolf AM, Nakanishi H, Hattori F, Vasiliou V, Adachi T, Ohsawa I, Taguchi R, Hirabayashi Y, Ohta S, Suematsu M, Ogawa S, Fukuda K.
Circ Res. 2009 Nov 20;105(11):1118-27.
Preventive effects of Chlorella on cognitive decline in age-dependent dementia model mice.
Nakashima Y, Ohsawa I, Konishi F, Hasegawa T, Kumamoto S, Suzuki Y, Ohta S.
Neurosci Lett. 2009 Oct 30;464(3):193-8.
Ohsawa I, Nishimaki K, Murakami Y, Suzuki Y, Ishikawa M, Ohta S.
J Neurosci. 2008 Jun 11;28(24):6239-49.
ミトコンドリアを増やすのに必要なタウリンはスルメから
(2011.9.21)
9月13日(火)TBSテレビ・教科書にのせたい(19:56~21:54)『寿命の鍵はミトコンドリアが握っていた!』では、ミトコンドリアが増える食材として、スルメを紹介しました。タウリンは健康ドリンクに含まれているので、おなじみの素材です。タウリンは、タコやイカなどの軟体動物にたくさん含まれています。実は、タウリンはイカよりもタコに多く含まれているのですが、タコではなくスルメを紹介したのには理由があります。
スルメをよく見ると一面に粉がまぶしてあるように見えます。これは、何か粉をまぶしたのではなく、タウリンが吹き出たものなのです。テレビでは見せることが大切なので、タウリンが実際に見えるスルメを選んだのが第一の理由です。テレビの収録では、「この粉がタウリンです。」と紹介したのですが、残念ながら時間の都合でカットされてしまいました。
もう一つの理由としては、タウリンは水に溶けやすいことです。タコの刺身ならタウリンをたっぷり食べられるのですが、なかなか刺身にできるタコは手に入りません。ゆでると、タウリンが抜けてしまうのです。その点、スルメなら、茹でずに食べるので、タウリンは抜けませんので好都合です。ただし、焼きすぎるとタウリンが減ってしまいますので、かるくあぶる程度で食べるとタウリンがそのまま、しかも、おいしく食べられます。
ミトコンドリアを増やす食材として、その他にトマト、ニンニク、ニラ、ブロッコリースプラウトを紹介しました。トマトにはリコピンという抗酸化物質が豊富に含まれています。また、ニンニク、ニラには硫化アリルが含まれています。ブロッコリースプラウトはスルフォラファンが含まれています。硫化アリルもスルフォラファンも体内で作られるグルタチオンという抗酸化物質の材料となります。硫化アリルは臭いがきついのですが、スルフォラファンはおいしく食べられるので、お勧めです。
ところで、タコ、イカ、トマト、ニンニクは地中海料理が好んで使う食材です。大規模疫学研究によると、地中海料理を好んで食べる人はアルツハイマー病になりにくいという研究があります(Mediterranean dietは地中海料理)。
(1)Frisardi V, Panza F, Seripa D, Imbimbo BP, Vendemiale G, Pilotto A, Solfrizzi V. Nutraceutical properties of Mediterranean diet and cognitive decline: possible underlying mechanisms. J Alzheimers Dis. 2010;22(3):715-40.
(2)Sofi F, Macchi C, Abbate R, Gensini GF, Casini A. Effectiveness of the Mediterranean diet: can it help delay or prevent Alzheimer’s disease? J Alzheimers Dis. 2010;22(3):715-40.
宇宙の渚とミトコンドリアの渚(2011.09.21)
9月18日(日曜日)NHKスペシャルはすばらしい番組でした。地球と宇宙の境界を「宇宙の渚」と名付け、そこで何がおきているのかを映像化したものでした。渚は海と陸の境界ですから、「宇宙の渚」はすばらしいネーミングです。
オーロラ:宇宙からやってくる電子と酸素のせめぎ合いです。
流星:宇宙からやってくる地球へのプレゼントです。
雷:宇宙ステーションから見る雲での放電は感動です。
私は、「ミトコンドリアの渚」を思い浮かべながらテレビを見ていました。細胞の中のミトコンドリアとサイトゾル(ミトコンドリア以外の細胞質部分)の境界でおきていることです。ミトコンドリア上では、体に必要なエネルギーの素を作っています。そのとき、ミトコンドリア上には大量の電子が流れ、放電した電子は酸素と衝突しながら活性酸素をつくりだしています。オーロラは宇宙からきた電子と地球の酸素がぶつかって生じているので、全く同じことが私たちの体の内でも起きているのです。
また、私たちはミトコンドリアで生じる活性酸素を動画にとっています。2009年のサイエンスゼロではその動画を紹介しました。宇宙からみた雷とそっくりです。あちこちで、電子が雲の中に局所的にたまると放電をおこし、雷となるのです。ミトコンドリアでも局所的に電子がたまると放電(電子の放出)がおき、活性酸素となるのです。ほんとうにソックリです。
宇宙の渚でおきていることと、細胞の中のミトコンドリアの渚でおきていることが同じと感じられる私は、幸せだと思いました。
女性ホルモンとミトコンドリア(2011.09.13)
9月13日TBS放映の「教科書にのせたい」では、女性ホルモンが、活性酸素を減らすことと、ミトコンドリア自身を増やすことをお話しました。
まず、女性ホルモン(エストロジェン)が活性酸素を減らすメカニズムですが、女性ホルモン自身が活性酸素を減らすわけではありません。女性ホルモンは、活性酸素を減らす酵素を増やす働きがあるのです。しかも、その増やし方は巧みで、活性酸素が少なくなると活性酸素を減らす酵素を増やす働きも失われるのです。つまり、完全に活性酸素をなくしてしまうことはないのです。活性酸素には、いろいろな役割があって活性酸素を完全になくしてしまえばよいというものではないのです。うまく制御しながら活性酸素を減らすエストロジェンの働きは巧みで、そのために女性は長生きできるのです。下記の論文には、活性酸素は必要な役割をはたしていること、運動などによって増やすことができることなどが記されています。
学術雑誌:Free Radic Res. 2006 Feb;40(2):111-9.
論文名:Role of reactive oxygen species and (phyto)oestrogens in the modulation of adaptive response to stress.
著者:Vina J, Borras C, Gomez-Cabrera MC, Orr WC.
所属:Universidad de Valencia, Departamento de Fisiología, 46010, Valencia, Spain
エストロジェンにはもうひとつの役割、ミトコンドリアを増やす機構があります。この事実は最近の研究によって明らかにされたもので、私自身も最初に研究発表を聞いた時に、本当かな?と疑問に思ったものです。エストロジェンはミトコンドリアに直接働きかけてミトコンドリアを増やしてくれます。
専門家で、詳細を知りたい方は、 下記の論文をご覧ください。
学術雑誌名:Biochim Biophys Acta. 2009 Oct;1793(10):1540-70.
論文名:Regulation of mitochondrial respiratory chain biogenesis by estrogens/estrogen receptors and physiological, pathological and pharmacological implications.
著者:Chen JQ, Cammarata PR, Baines CP, Yager JD.
所属:Breast Cancer Research Laboratory, Fox Chase Cancer Center, Philadelphia, PA 19111, USA
ミトコンドリアが老化を決めている(2011.09.13)
活性酸素が老化を進める張本人であることがわかってきました。老化の原因である活性酸素の90%はミトコンドリアで作られます。また、ミトコンドリアは生体で必要なエネルギーの源をつくっています。このエネルギー源は、体の中で毎日毎日壊されている部分の修復にもあてられます。私たちの日常生活で、修理するにはお金がかかるのと同じです。でも、活性酸素やエネルギーだけで老化を説明できるわけではありません。多くの原因がからみあって老化が進むのです。ところが、最近の研究、しかもここ2〜3年の研究によって、種々の原因はミトコンドリアに働きかけていることがわかってきたのです。しかも、下記に示す引用文献をみると分かるように、去年と今年発表された論文が多いのです。ミトコンドリアが老化を決めていると言える時代になりました。
テロメアとミトコンドリア
2009年には、老化の原因の解明に貢献があったとして、「テロメア」の研究にノーベル賞が与えられました。テロメアは、細胞が分裂するごとに短くなるのですが、完全になくなる前に老化が進むので、老化とテロメアの短縮の間には、未解明の謎があったのです。今年になって、すばらしい研究論文が発表されました。テロメアが短くなると、ミトコンドリアが減少し、活性酸素が増え、老化が進むことを解明した研究です。有名なNatureに論文が掲載され、そこでは、Ageing theories unified (老化説がひとつになった)と賞賛されています。
学術雑誌:Nature. 2011 Feb 17;470(7334):359-65.
論文名:Telomere dysfunction induces metabolic and mitochondrial compromise.
著者:Sahin E, Colla S, Liesa M, Moslehi J, Müller FL, Guo M, Cooper M, Kotton D, Fabian AJ, Walkey C, Maser RS, Tonon G, Foerster F, Xiong R, Wang YA, Shukla SA, Jaskelioff M, Martin ES, Heffernan TP, Protopopov A, Ivanova E, Mahoney JE, Kost-Alimova M, Perry SR, Bronson R, Liao R, Mulligan R, Shirihai OS, Chin L, DePinho RA.
炎症とミトコンドリア
私たちには自分自身を攻撃せずに、異物を攻撃して排除する機構があります。それが免疫です。ところが、私たちの体は長い間に少しずつ変化していきます。少しずつ変化していくと自分自身なのにその違いを外敵と勘違いして攻撃するようになります。これが、慢性的な炎症です。炎症が老化の本質だという意見があります。
最近になって、炎症にもミトコンドリアが重要な役割を果たしていることがわかってきました。これも今年になって明らかになったことです。
学術雑誌:Nature. 2011 Jan 13;469(7329):221-5.
論文名:A role for mitochondria in NLRP3 inflammasome activation.
著者:Zhou R, Yazdi AS, Menu P, Tschopp J.
所属:Department of Biochemistry, Center of Immunity and Infection, University of Lausanne, Chemin des Boveresses 155, CH-1066 Epalinges, Switzerland.
カロリー制限、長寿遺伝子とミトコンドリア
カロリー制限をすると長寿遺伝子のスイッチonされて、寿命が延びるという話を聞いたことのある人は多いでしょう。先日のNHKスペシャルの(6月12日放映)「あなたの寿命は延ばせる:発見!長寿遺伝子」では、カロリー制限によって長寿遺伝子が働き、長寿になれるという話がされました。人間には誰にでも長寿遺伝子が7つあります。その中の3つの長寿遺伝子によって作られる酵素はミトコンドリアの中で働いています。最近になって、長寿遺伝子によって作られるミトコンドリア酵素はエネルギーを有効に使うようにして長寿を達成できることが明らかになっています。さらに、活性酸素を消す役割も増強します。しかも、アミノ酸を有効に使ったり、アンモニアを排除するための大切な役割を果たしていることがわかりました。また、長寿遺伝子のなかでもっとも中心的な役割をはたしているSirT1はミトコンドリアを増やす働きがあり、たくさんある役割のなかでも最も受容な役割であることがわかりました。
カロリー制限と長寿遺伝子は、ミトコンドリアに働きかけていたのです。
学術雑誌:Aging (Albany NY). 2011 Jun;3(6):635-42.
論文名:SIRT1 and SIRT3 deacetylate homologous substrates: AceCS1,2 and HMGCS1,2.
著者:Hirschey MD, Shimazu T, Capra JA, Pollard KS, Verdin E.
所属:Gladstone Institute of Virology and Immunology, University of California, San Francisco, CA 94158, USA.
学術雑誌:Nature. 2010 Mar 4;464(7285):121-5.
論文名:SIRT3 regulates mitochondrial fatty-acid oxidation by reversible enzyme deacetylation.
著者:Hirschey MD, Shimazu T, Goetzman E, Jing E, Schwer B, Lombard DB, Grueter CA, Harris C, Biddinger S, Ilkayeva OR, Stevens RD, Li Y, Saha AK, Ruderman NB, Bain JR, Newgard CB, Farese RV Jr, Alt FW, Kahn CR, Verdin E.
所属:Gladstone Institute of Virology and Immunology, San Francisco, California 94158, USA.
学術雑誌:Cell. 2010 Nov 24;143(5):802-12.
論文名:Sirt3 mediates reduction of oxidative damage and prevention of age-related hearing loss under caloric restriction.
著者:Someya S, Yu W, Hallows WC, Xu J, Vann JM, Leeuwenburgh C, Tanokura M, Denu JM, Prolla TA.
所属:Departments of Genetics and Medical Genetics, University of Wisconsin, Madison, 53706, USA.
ミトコンドリアは老化を決める中心
アポトーシス、イースター島で発見された免疫抑制剤ラパマイシンとの関連も続々あきらかになっています。今まで、研究者の数だけ仮説があるとさえ言われてきた老化の原因です。でも、それらのほとんどが、ミトコンドリアを中心にして関与していることが解明されつつあるのです。ミトコンドリアを制する人は、老化を防げると言えるでしょう。