ノーベル賞を2回受賞したライナス・ポーリング博士が提唱した抗酸化

By | 2016年10月12日

 2013年の中国海南島で開催された国際学会で、ある中国女性から声をかけられ最前席の隣の席に座るように促された。彼女は、ライナス・ポーリング博士(1901年-1994年)の孫と結婚したとのことで、義理の祖父ライナス・ポーリング博士について興味深い自慢話を聞くことができた。
 ノーベル賞を2回受賞した人は歴史上4名いる。しかし、別分野で2回ノーベル賞を受賞したのは、ライナス・ポーリング博士だけである。1954年に「化学結合」の概念を提出した業績で、ノーベル化学賞を受賞した。さらに、地上核実験に対する反対運動をおこし、1962年にノーベル平和賞を受賞している。翌年の1963年に部分的核実験禁止条約が締結され、これ以降は大気中の核実験は事実上禁止され、閉鎖された地下核実験のみが行われている。北朝鮮でさえ、大気中核実験ではなく地下核実験を行っている。現在の世界が放射能まみれにならなかったのは、ポーリング博士たちの運動によるものである。
 学問では、量子力学を物質のなりたちに適用し、量子化学・化学結合の概念をうちたてた。さらに、分子生物学の勃興に重要な役割をはたし、コラーゲンなどのタンパク質の立体構造を決定した。さらに、遺伝子病の原因を遺伝子解析によって明らかにし、鎌形赤血球の原因遺伝子を決定した。さらに、人間の健康に対して、分子矯正医学の概念を提出した。さらに、当時電気自動車の開発にも取り組んだ。このように、「さらに」「さらに」「さらに」「さらに」と連続して紹介するほど、驚くほど多様な方面に業績を残した人であり、人類の幸福を願った人である。これらの業績によって、英国の科学誌New Scientistでは、歴史上の偉大な科学者100名の一人として認められている。20世紀では、相対性理論のアインシュタイン博士と2人だけが選ばれているくらい偉大な研究者であり社会人であった。
 ポーリング博士が最後に取り組んだ課題は、人類の健康である。健康にとって活性酸素が諸悪の根源であるので、その活性酸素を消去する抗酸化物質を大量に摂取することを推奨したのである。ポーリング博士は、ビタミンCの大量摂取を推奨した。ノーベル賞受賞者が推奨したので、多くの製薬会社では強力な還元剤の開発が進められた。しかし、抗酸化物質は還元力が強ければ強いほど副作用が強くなるようになる。抗酸化物質の大量摂取については、ポーリング博士は間違っていたのだ。活性酸素には必要な活性酸素と生体を破壊する活性酸素があることを知らなかったため、必要な活性酸素も消去しようと考えてしまったのである。分子状水素のような適度の還元力を持ち、必要な活性酸素は選択的に消去しないことが重要であるという考えには及ばなかったようである。
 もしも、ポーリング博士がビタミンCではなく、分子状水素の還元力に気がついていれば、3回目のノーベル生理学・医学賞も受賞したかもしれない。
 ポーリング博士の意思はScience brings people togetherを目標とするNobel-Pauling Biotech Symposiumに引き継がれている。The goal is to build a bridge between academia, government and industry, and to mix good business with exciting science globally. ここでも、基礎科学の重要性を説いている。
 ちなみに、ポーリング博士が亡くなった1994年に私は日本医科大の教授として迎えられた。