卵子のもと移して若返り?米企業が赤ちゃん誕生と発表:水素水との関連は?
2015年5月11日の朝日新聞などによると、
卵子の素になる細胞から、細胞に必要なエネルギーを作るミトコンドリアを取って発育不良の卵子に移植する方法で「卵子や受精卵の質が悪い人の妊娠率を上げられた」と報道されました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150511-00000013-asahi-int
私への質問や相談で多いのは不妊治療についてです。ここでは、「ちょっと一言」と簡単に説明できないので、項目に分けて説明したいと思います。
(1) 「卵子の老化」と「卵子の素の総量は後から増えることはない」という常識
2012年2月のNHKのクローズアップ現代では、「卵子の老化」がとり上げられました。「男性と違い、女性の体には卵子の素がなく、新しく作られることはない。」というのが今までの常識でした。この常識は一般に知られていなかったので、大きな反響はあったわけです。
http://35歳妊娠.net/reality/egg/number/などを参照
私もこのブログで卵子の老化をとりあげました。
(2)「卵子の素の総量は後から増えることはない」という常識の転換:卵子の素を作り出す
以前は、「神経細胞は大人になってから増えることはない。」というのが常識でした。しかし、現在は、大人になっても神経細胞は増えるというのが、新しい常識となっています。
卵細胞についても、近年常識がかわりつつあります。
インターナショナル・ステムセル社は、世界で初めて人間の未受精卵から幹細胞を作り出すことに成功したと発表しました。
http://www.lifelineskincare.jp/Contents/stemcell.cfm
(3)卵子の素があるという新常識
また、卵子にも素になる細胞があって、男性と同じように生殖細胞の素があって、ある程度は大人になっても増えるという新しい常識が確立されつつあります。
生殖年齢女性の卵巣から精製した分裂活性の高い生殖細胞による卵母細胞形成という論文がNatureに発表されました。ちょうど、NHKで「卵子の老化」という常識を報道した時期と同じです。
http://www.nature.com/nm/journal/v18/n3/full/nm.2669.html
http://www.nature.com/nm/journal/v18/n3/abs/nm.2669_ja.html?lang=ja
論文名は、「生殖年齢女性の卵巣から精製した分裂活性の高い生殖細胞による卵母細胞形成」 2012年2月26日
論文の要旨は、
「in vitro で卵母細胞を形成し、 in vivo で受精能を有する卵を形成する生殖幹細胞が成体マウスの卵巣中で同定され、単離されている。本論文では、原始生殖細胞と一致する遺伝子発現プロファイルと高い分裂活性を有する希少な細胞を精製するための、成体マウス卵巣ならびにヒト卵巣皮質組織の双方に適用可能な蛍光活性化細胞選別法(FACS)に基づくプロトコルを呈示し、検証する。このような細胞は、 in vitro でいったん樹立された後は何か月間も増殖可能であり、35〜50μmの細胞を自然発生的に産生し、これらは形態、遺伝子発現、一倍体(1 n )細胞を生じる状況から卵母細胞と判断できる。このヒト生殖系列細胞をGFPを安定的に発現するように改変し、ヒト卵巣皮質生検組織へ注入して免疫不全雌マウスに異種移植したところ、1〜2週間後にGFP陽性の卵母細胞を有する卵胞の形成が認められた。したがって、生殖年齢の女性の卵巣は、成体マウスと同様に、 in vitro で増殖可能であるとともに in vitro および in vivo で卵母細胞を産生する、分裂活性の高い希少な生殖細胞を有している。」
今回、卵子が卵巣の前駆細胞から補充され続けているとの新しい理論によって、「1人の女性が持つ卵子数は有限と考えられてきた」定説が覆されたと研究チームは述べています。
(4)ミトコンドリアの移植
以前このブログでも取り上げましたが、ミトコンドリアを卵子に移植することが技術的に可能になりました。
→ミトコンドリア遺伝子の交換後の受精
さらに、2015年になって、この方法を人間に使うことを英国では法律として認めることになりました。
「3人の親」からDNAを受け継ぐ子供の誕生を認める、世界初の「卵子核移植」を英上院が合法化
http://healthpress.jp/2015/03/dna.html
2015年2月24日
この法案の目的は、母系遺伝性難病のミトコンドリア病の予防です。「卵子核移植」によって生まれる子供は、父母とドナー女性の3人のDNAを受け継ぐことになります。卵子ではなく、受精卵の段階での移植も可能ということです。
この法案はミトコンドリア病を対象とするものですが、不妊治療にも使われるだろうと私は思っていました。若いミトコンドリアを移植することで、卵子が若返る可能性があるからです。
(5)卵子のもとを移植して若返り
ミトコンドリア病の治療に使うミトコンドリアは、第三者のミトコンドリアであり、ミトコンドリア遺伝子は母系遺伝ですので、遺伝的には一人の父親と二人の母親をもつことになります。
しかし、自分の卵子の素のミトコンドリアを老化した卵子に移植すれば、ミトコンドリア自体も本人のものであり、母親が二人になることはありません。
妊娠の確率が高くなったということは、ミトコンドリアを移植して若返ったということを意味しています。しかし、卵子の素は少なく、まだまだ技術的にも問題があります。卵子の素(卵幹細胞)を増やせたら、高齢になっても妊娠の確率が高くなるはずです。
(6)ミトコンドリアの若返り
ミトコンドリアでは、日々活性酸素が生まれ、ダメージをうけています。少しのダメージでしたら、ミトコンドリア同士を融合させ、お互いのダメージを補い合います。しかし、ダメージが補い合えないようになると、痛んだミトコンドリアだけを選んで分解してしまう装置が細胞にはあります。悪くなったミトコンドリアを排除して、新しい若いミトコンドリアを増やすのです。
ミトコンドリアはダメージを受けやすいのですが、若返る装置も備えているということです。この機構は、Mitophagyとよばれ、盛んに研究が行われています。
(7)水素による神経新生の促進と卵子生成促進の可能性
卵子の数は生まれてから変わらない、若返ることはない、という常識は、神経でも、あてはまっていました。「大人になると神経は増えない」というのが以前の常識でしたが、現在は大人になっても神経が増えるのが常識です。
ところが、強度で長期にわたるストレスにさらされると、神経の新生は低下します。うつ病の原因は、神経の新生の低下が原因と考えられ、抗うつ剤は神経の新生をうながします。
私たちは、実験でマウスに長期にわたるストレスを与え、記憶力、認知機能の低下と神経の新生の低下を促したのですが、水素水をのませると、記憶力、認知機能、神経新生の低下を改善することを発見し、論文として2008年にNeuropsychopharmacologyに発表しました。Neuropsychopharmacologyは、Nature出版社の高名な学術誌です。
Neuropsychopharmacology. 2009 Jan;34(2):501-8. doi: 10.1038/npp.2008.95. Epub 2008 Jun 18.
Consumption of molecular hydrogen prevents the stress-induced impairments in hippocampus-dependent learning tasks during chronic physical restraint in mice.
Nagata K1, Nakashima-Kamimura N, Mikami T, Ohsawa I, Ohta S.
Abstract
We have reported that hydrogen (H2) acts as an efficient antioxidant by gaseous rapid diffusion. (中略)Neural proliferation in the dentate gyrus of the hippocampus was suppressed by restraint stress, as observed by 5-bromo-2′-deoxyuridine incorporation and Ki-67 immunostaining, proliferation markers. The consumption of hydrogen water ameliorated the reduced proliferation although the mechanistic link between the hydrogen-dependent changes in neurogenesis and cognitive impairments remains unclear.(後略).
当時、読売新聞にも紹介されました。
http://www.fine-thanks.co.jp/suisotopics.pdf#search=’読売新聞+水素+記憶力’
ここまでは、科学的根拠のあることですが、これからは「我田引水」であり、科学的根拠の薄い私の妄想に近い話だと思って読んでください。
もし、水素が神経の新生を促すのであれば、卵子の素からの新しい卵子を作る事も促進してくれるのではないかという希望がもてます。今後の研究が待たれます。