セロトニントランスポーターと、酵素と

投稿者: | 2011年11月16日

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(2011.8.15)
世界一受けたい授業(8月13日、日本テレビ)では、酵素のひとつとしてセロトニントランスポーターを取り上げました。すると、視聴者のかたから、「セロトニントランスポーターは酵素でないはず?」との質問をいただきました。かなり酵素のことを良く知っているかたからの質問です。
酵素は、化学反応を進める(触媒する)はずで、セロトニントランスポーターはセロトンを回収するだけで、セロトニンを変化させない、だから酵素ではないはずということです。もっともなご意見です。しかし、別の見方をすれば、セロトニントランスポーターは神経細胞の外にあるセトロニンを神経細胞内へ回収する、つまり外側にあったセロトニンを内側にあるセロトニンに変化させます。「なるほど変化している」と思われる方もいるでしょうし、こういうのは、こじつけだと思われる方もいるかもしれません。
明確な場合はよいのですが、このように解釈が異なる場合がでてきます。そこで、酵素の名前と分類をして登録することが必要になってきます。この仕事をしているのが、国際生化学分子生物学連合(International Union of Biochemistry and Molecular Biology=IUBMB)の命名委員会(Nomenclature Committee)(NC-IUBMB)です。つまり、この委員会で認められて、登録番号がつけられて、初めて酵素であると認められるのです。
現在でも、この酵素登録が引き続き行われています。別の酵素だと別々に登録されていたものが、実は同じものだったことが分かると、登録番号を変えたり、削除したりしなくてはならないのです。そこで、毎年作業を続けて酵素を登録しているのです。現在登録されている酵素(2011年7月1日現在)は、4528種類。この4528種類の中には、人間にはない酵素がたくさんあります。
また、肝臓と心臓では同じ働きをしている別物(アイソザイムと言います)がたくさんあっても1種類としか数えません。また、化学反応だけで分類すると化学反応では全く同じものでも別の役割を果たしているものがたくさんでてきてしまいます。こうなると本来の酵素の分類は、化学反応だけで分類できないということになります。アイソザイムも含めると何種類人間には酵素の種類があるのかをNC-IUBMBに問い合わせると「わからない」という返事でした。でも、アイソザイムを含めるとゆうに10,000種類は超えるだろうということで、番組では10,000種類以上という数字を使いました。
つまり、本来の酵素の分類は、化学反応だけで分類できないということになり、酵素の分類をもう少しゆるやかなものにしようという意見もでています。
ところで、話は戻りますが、NC-IUBMBが登録したセロトニントランスポーターの登録番号は2.A.22.1.1です。
http://www.chem.qmul.ac.uk/iubmb/mtp/
http://www.chem.qmul.ac.uk/iubmb/mtp/class3.html#IIIB 参照
酵素の登録番号には、ECをつけることになっており、セロトニントランスポーターの登録番号には、ECがついていません。ということは、セロトニントランスポーターは、正式には酵素としては認められていないということになります。セロトニントランスポーターは酵素と同じく機能性たんぱく質であり、いろいろな性質で酵素と同じような性質をもつので、番組では広い意味での酵素として扱いました。

日本テレビの「世界一受けたい授業」(8月13日)に出演して「酵素」について話しました。番組冒頭では、「酵素生活」「酵素美容」「酵素ダイエット」「酵素ドリンク」「酵素サプリメント」が最近話題になってますよという紹介がされましたが、私の授業内容とは全く無関係です。番組では「体の中で酵素を働かせることが大切である」「体のなかで作り出すことが大切である」ことを何度も強調しました。酵素は、体の中で作られ、体の中のすべての作用を司るものです。

調べてみると、「酵素を摂って健康な体作りをしていきましょう」などと書かれた最近の女性誌やインターネットで紹介されているのは「醗酵食品」のようです。バクテリア、酵母やカビの中には、私たちの体の中では作られないビタミンや必要な微量成分をつくってくれますので、バクテリア、酵母やカビによる醗酵は古くから利用されてきました。納豆や味噌、醤油、韓国のキムチも醗酵食品です。その醗酵食品を食べて健康に役立てようとする考えは、まちがっていません。
醗酵の過程では、バクテリア、酵母やカビの「酵素」によって、さまざまな有益な物質が作られます。しかし、その酵素を食べたり飲んだりしたからといって、私たちの体の中で醗酵作用が続けられるわけではありません。「酵素生活」「酵素美容」「酵素ダイエット」「酵素ドリンク」「酵素サプリメント」などと酵素を引き合いにされるのは、誤解を招くもとです。酵素の役割を誤解させるものです。基本は、酵素は食べたり飲んだりするものではなく、酵素によって作られた有益な醗酵物を食べましょう、ということです。